OBだより (第19回) 2001.06.28
半導体デバイスの強度信頼性を予測する
シミュレーションシステムを開発。

(なかむら・しょうぞう)
中村 省三 さん

広島工業大学
工学部 知能機械工学科 教授


(昭和46年(1971年)機械工学科 卒業)
中村 省三さん

情報端末機器が小さくなると、
半導体デバイスも小さくなる。
情報通信技術(IT)の急速な発展により、例えば携帯電話やノートパソコンなどの携帯情報端末機器はさらなる小型・薄型・軽量化へと進化し続けています。

が、その際に技術的な課題となるのは半導体デバイスの最適化。これら情報端末機器のサイズが小さくなるぶん、当然、半導体デバイスも小さくしなくてはならない。そして、より小型化し、薄くなるほど、壊れやすくなるわけです。

こうした状況において、半導体デバイスの強度信頼性を確保し、あるいは、高めていくには、どんな材料を使い、それをどんな構造で、どんなプロセスでつくっていくのが良いのか。それを熱粘弾性数値解析(シミュレーション)と実験で評価していくのが私の研究テーマです。

小型・薄型・軽量化が進む携帯電話の内部 小型・薄型・軽量化が進む
携帯電話の内部。



高分子系機能材料を
どうシミュレーションするか?
半導体デバイスの信頼性を考える上で、ポイントとなるのは、プラスチックなどの高分子系機能材料の良し悪しです。

そこで、まずこの材料をシミュレーションする必要があるのですが、困ったことに、構造解析や応力解析に関する市販のソフトでは対応できないのです。というのも、これら市販のソフトは金属やセラミックスにしか使えないから。

プラスチックのような高分子系の機能材料は、100度以上の高温になると柔らかくなったり、時間が経つと荷重による伸び(クリープ現象)や応力の減少(応力緩和現象)が起きるという独特の性質があり、これを「粘弾性挙動」といいます。

高分子系機能材料をシミュレーションしたいが、それを計算するプログラムがない。となれば、自分でそれを開発するしかない。そこで、私はそのプログラム開発と、それを使っての応力実験に取り組むことにしたのです。
機能材料及びデバイス開発のフローと研究設備の位置付け
(クリックで拡大)

自らプログラムを開発し、
実験による検証を徹底。
プログラム開発に当たっては、高分子系の代表格であるプラスチックをめぐる数々の現象を把握することからスタート。

温度や時間がどの程度変わったら、性質がどう変化するのか。温度と時間の関係をいろいろなケースで実験し、それを粘弾性基礎式に当てはめていきました。

また、半導体デバイスは、プラスチックだけでなく、例えばプラスチックと金属、あるいはプラスチックとセラミックスといった具合に、複合的に材料が使用されるケースが大部分なだけに、基礎式をこうした工学的な領域にまで拡張。私は10年間かけて、プログラムを完成させました。

その後は、プログラムが実際の現象と合致するかどうか、実験を繰り返すことによってその妥当性を検証。これが博士学位論文として結実。

その後、温度の上下によって材料の残留応力や反り変形がどう起きるのか。それを数ミクロン単位の様々なケースにおいて、シミュレーションで求めた値と実験で出た値とが合致することを確認した上で数々の論文にまとめ発表。「FCA方式による半導体デバイスの熱粘弾性解析による反り変形挙動の解析」と題したこの論文で、2000年5月にエレクロニクス実装学会で優秀論文賞をいただきました。


未知への挑戦こそ、
研究者の歓び。
そして現在私は、この研究をさらに発展させる研究課題として、高分子系機能材料の物性に着目しています。

弾性係数や線膨張係数、熱的性質が大きい材料と小さい材料とでは、半導体デバイスの応力や反りにどう影響するかについて、定量的な解を求め、新しい材料開発や強度評価法の確立などをねらった新たな研究を進めています。

IT革命の時代。これから次世代の情報端末がどんどん開発されていくとともに、半導体デバイスに求められる条件もますます厳しくなっていくでしょう。

信頼性の問題しかり、コストの問題しかり。
コストの安い材料でもいかにして信頼性を高められるか。

材料、プロセス、構造などトータルなシステムとしての最適化に取り組むことが、私の今後の大テーマです。

電子部品の寿命予測まで含めた一貫した材料設計・構造設計・システム設計の構築を目指していきたいと考えています。

未知なるものへの挑戦こそ、研究者の歓びです。
自分が研究を通して、何らかの形で世の中に貢献している。

そう考えれば、これほどやり甲斐のある仕事はないと胸を張って言えますね。


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