OBだより (第30回) 2002.05.08

(ふくしま・しんいち)
福島 真一 さん


(有)空間共同社 勤務
(昭和50年(1975年)建築学科 卒業)
福島 真一さん


卒業23年後の今、想う事

 今から23年前、工学部では一番人気があり、競争倍率の高かった建築学科に入学しました。当時は、夢と理想を求め建築論の本などを読みまくり、カメラ片手に、有名建築を見て廻った日々が、懐かしく思い出されます。

 それが今や、工学部建築学科から、環境学部環境デザイン学科・環境情報学科に改名され、志望する学生も減り、おまけに就職難だと聞きます。時代の流れなのでしょうか。

 この業界に身をおく私自身も、少々、疲れ気味です。年々、仕事は減り、面白いというか、やり甲斐のある仕事が少なくなりました。

 今や、業界のモットーは、「安く、早く」であります。安く早くでは、いい建物はできません。価格破壊という言葉を、よく耳にします。消費者の立場で買手になると、うれしい話なんですが、自分の職種にまで浸透してくると、そうは言っておれません。

 私は技術屋として、適正価格というものをアピールしていきたいと思っています。こんな状況下であっても、建築は面白いし、この年になってやっと、判らない所がわかってきました。今、大学に戻ったら、研究すべき所がはっきりしていて、有意義な学生生活が送れるだろうなぁと思います
 
 私は、熊本市で建築構造設計の事務所を経営しています。大学卒業と同時に、熊本市内の某設計事務所で11年間修行(?)した後、平成元年に独立して、早いもので14年目になります。
 
 熊本という所は、元気があるというか、目立つ事が好きなのか、アートポリス構想というものがあり、4年ごとに国際建築展を開催しています。「後世に残し得るような優れた建築物を造り、質の高い生活環境を創造するとともに、地域文化の向上を図る」というスローガンのもとに。
 
 人は誰しも、辛い時苦しい時、大志を抱くことが、初心にかえることが必要で、まさに今の自分にあてはまります。

 こんな時代だからこそ、何が正しいのか、何が真実なのか、見失わないようにしたいと思っています。こんな思いも手伝って、昨年11月に、建築構造分野のNPO(特定非営利活動法人)を立上げました。個人63名、企業・団体30社で始めることになり、私は事務局長を担当することとなりました。
 
 建築構造分野でのNPOは、全国で二番日の設立となりました。平成10年3月に、特定非営利活動促進法が公布されたばかりで、日本ではまだ馴染みが薄いのですが、アメリカでは一般的な存在だそうです。その数たるや120万を越え、大学を卒業する学生の10%が、NPOに就職するといわれています。

 公益的なサービスをはじめ、福祉問題や環境問題への取り組み、教育活動や住宅供給など、あらゆる分野で多彩な活動が営まれています。オーケストラや劇団などの芸術団体の大半もNPO法人です。有名なところでは、リンカーンセンターやハーバード大学もNPO法人です。民間といえば、営利なら企業、非営利ならNPOというように、NPOはアメリカの主要な社会基盤をなしています。
 
 こんなNPOに私は、新しい可能性を見いだそうとしています。日本では、50代半ばで定年を迎え退職です。長年培ってきた技術が、埋もれてしまいます。これは、非常にもったいない事であり、伝統や技術が後世に伝承されません。こんな埋もれそうな技術を、NPO法人を通して活用できないだろうかと考えています。
 
 それと、学生と企業との仲介ができないだろうかと考えています。今の学生は、やたらと留学したがり、大学の授業など単位を取るだけ。又、企業側は、育て上げる時間的余裕がなく即戦力を求める。こんな状況下で、単なる職場体験でなく、お互いのためになる交流(?)を、NPO法人でやりたいなぁと思っています。
 
 それともうひとつ、建築構造技術者の地位の向上と構造技術のアピールを、NPOを通して行ないたいと思っています。地震がある毎に、思い出される技術者ではなくて、今や建築界も性能設計の時代であり、安全性の等級により地震保険の掛け金が変わるということを、積極的にアピールしていきたいと思います。まずは、熊本から。

 この原稿が同窓会誌に載るころは、現在(1月)工事中のホームページも、修復していると思いますので、興味のある方は、NPOケーピック(建築性能情報会議)のホームページ(http://www.jade.dti.ne.jp/~kukekoke/)を御覧ください。


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